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日曜日, 6月 24, 2007

アジトの陥落とイクルミちゃんの再生

「なるほど、そう言う訳か」
先日哲子の家へ出向き借りてきた哲子の母の写真と、生年月日その他のデータを元に構築したバーチャルな黒幕との対話をしていたみかかは、何かを掴んだようだ。
 アジト内部には、イクルミもいるが一々余計な事は聞かない。
聞かなくても解る訳ではないが、相互に信頼しているのだ。
 アジトの他のメンバー二人は、昨日から出張している。
厳密には、過去にタイムスリップしてしまい、現代に居ない状態である。
 一応連絡は付いたのだが、一緒にタイムスリップした深川を片付けてからでないと、すぐ現代に戻ってくる訳にも行かないのだ。
 そんな状況の中で、アジトに警報が鳴り響いた。
監視モニターを点検する。
「何これ」
みかかは思わず言葉を失ってしまう。
そこには、おびただしい数のヘドロスライムがアジトに押し寄せて居るのが映し出されていたからだ。

 アジトの所在は敵に気付かれていただろう。
それでも、今まで敵が攻め込んできた事はなかった。
どうして、今、大群でアジトを襲うのか?みかかは考えた。
イクルミは、武装して出入り口に仁王立ちである。
「そうか、タイムトラベルはやつらの陽動作戦!私たちを二つに分けて、その好きにアジトを攻め落とすつもりか」
 ビービービー。サイレンが鳴り続ける中。
ドーン。大量のスライムが、ドアに穴を開け、そこから漏れ出すように、アジトの中心である、この部屋に近づいてくる。
 幸い、二枚のドアにまだ穴が空いただけなので、イクルミはまだ余裕で対応が出来た。
「みかかちゃん、自動販売機から逃げて!」
みかかは、首を振って
「いや、私は逃げないよ」
「どうして」
「!?」
突然イクルミは体の自由を失った。
「動けない~整備不良みたい」
危機感の無いイクルミの声とは対照的に、扉の穴はみるみる大きくなり、部屋はスライムで足の踏み場もない状態に。
「降伏するわ」
「え~~っ」
イクルミが驚いて抗議の声を上げるが、何せ、声を出す事しかままならない。
体の自由を失っているのだ。
 みかかは、どこかから見て居るであろう、攻撃部隊の対象に向かって、戦意がない事を現すために、椅子から立ち上がると、軽く目を閉じ、両手をけだるそうに上に上げてみせる。
「え~、ブーブー」
抗議の声を止めないイクルミ。
「物わかりが良いわね、流石みかかさん」
どこからとも無く声がこだまする。
みかかは、それを聞き、フッと軽く笑う。
程なく、黒子が四人アジトに侵入してきて美嘉かを連行していく。
「隊長、こいつはどうしましょう」
黒子が隊長にイクルミ用の指示を仰ぐと。
「スクラップにしろ」
「どひぇ~~」
イクルミは、黒子二人がかりに寄るストンピングで解体された。

 アジトとの連絡が取れない事を不審に思った二人が、なんとか過去から現代に帰還してポリ容器置き場を訪れると。
「ドアが開いてる」
嫌な予感を胸に、中にはいると、コンクリートの扉が壊され、内部はヘドロの嫌な臭いが充満していた。
 それだけで、ここで何があったのか判断するのに十分な状況である。
「私たちが居ない間に……。みかかさんとイクルミちゃんは無事ですよね?」
「……。わからん。」
先輩も、いつになく渋い表情である。
 足元に気をつけながら階段を下ると。
アジトの内部は、めちゃめちゃに荒らされていた。
その上を、ご丁寧にヘドロでコーティングしてある。
うへぇ。二人で手がかりを差がしていると。
コツン。
何かが哲子の足にぶつかった。
なんだろうと、ヘドロに手を突っ込んで引き出すと。
「キャー」
「どうした?」
哲子が拾い上げたものは、イクルミの生首だった。
 「おうおう」
先輩が、哲子が放り投げてしまったイクルミの生首を拾い上げる。
「生きてるか?」
な、生きてる訳無いジャン。
「あやっ。園子ちゃん。返ってきたの~嬉しいよ」
見事に生きていた。
 「何があった」
「深川の襲撃があって、みかかちゃんがやつらに連れて行かれちゃった」
 アジトの惨状を見て、おおよそ察しは付いていたが……。
みかかの状態については、予断を許さない。無事でいてくれるだろうか。
「イクルミ、お前何やってたんだよ。みかかの護衛だろう、お前は」
先輩がイクルミちゃんの生首をシェイクしてあたっている。
「先輩、そんな、イクルミちゃんだって悔しいんだよ、ね?」
「うん、私悔しい。体が動かなくなって」
「!?今、なんといった?」先輩がイクルミちゃんを問いただす。
「敵の侵入が始まって、すぐ、私の体が整備不良のために活動を停止してしまったの」
そうか、先輩が過去に行ってたから、メンテナンスできなかったんだ、イクルミちゃん。
「ちょっと待って、それおかしいだろう」
「何が変なんですか?」
「お前、なんでメンテナンスしてないの?」
「昨日は、メンテナンス来なさいって連絡来なかったよ?」
先輩が、何か考えている。
「あのぅ、先輩が居なかったからメンテナンスが出来なかったんじゃないの?」
「いや、私は要らない。みかかが五月蠅いからね。私が居ない時メンテナンスできないとどーするんだって。だから、イクルミちゃんのメンテナンスはオートメーション化してあるんだ」
「なんで、メンテナンスされてなかったのか、どのみちイクルミの体をどうにかしないとならないし、それにもうここはちょっとこのままでは使えないからね」
確かに、大掃除が必要です。
「イクルミちゃんもピックアップできた事だし、もうここに用はないわ、メンテナンス病院に行くわよ」
私たちはアジトを後にする。
「メンテナンス病院ってどこにあるんですか?」
「あれ?哲っちゃんに言ってなかったっけ?木場病院の地下にあるのよ」
「ハックション」
イクルミちゃんの生首がクシャミをした。体がないと寒いのだろうか。手がないと、口をカバーできないので、大変である。色々飛ばないように。って、イクルミちゃんはサイボーグでしたね。エヘヘ。と杞憂と思って横を見ると、先輩はいや~な顔してらっしゃる。案の定、先輩の服はイクルミちゃんのクシャミで色々汚れてしまってた。


先輩はイクルミちゃんの頭を手頃な鞄に詰めこみ、アジトを後にする。
向かう先は木場病院の地下だ。
「木場病院に地下があったとは驚きですよ」
私が率直にそう言うと。
「そうか?あそこは木場公園の隣でしょ。木場公園の地下には都営大江戸線の木場車庫があるのよ」
なるほど。何がなるほどかは、自分でもよくわからないが、そう言う事にしておいた。
これから行って見るんだし?
 深川高校の横を通り抜け、大横橋を渡り、木場公園の外周にそって私たちは木場病院へとやってきた。
「先輩、それ重くない」
「大丈夫」そうは言うものの、笑顔が引きつっている。だいぶ重いのだろう。
ボーリング玉くらいには。
「ごめんね~」頭だけのイクルミちゃんが鞄の中から声だけで謝る。
結構不気味である。
 不気味と言えば夜の病院も不気味だ。
消灯され、寝静まっているようではあるもの、緊急外来に備えてスタンバイしているという。夜の学校とコンビニの中間のような立ち位置だろうか。
 正面玄関から堂々と中に入る。
エレベーターに乗り込むと先輩がなにやら、暗証番号の様な秘密のボタン操作をエレベーターのボタンに行っている。
 ボタンを押す回数が増えるのは、木場病院が低層の建物な為、使える押しボタンが少ないからである。
ボタン二つのPCエンジンのコントローラーでネオジオから移植した格ゲーを遊ぶみたいな物である。ボタンの同時押し上等!
「ふぅ」と先輩がアクロバチックな手つきによるボタン操作を完了させると、エレベーターが下にゆっくりと動き出す。
これが結構深い。
「このボタン操作は、改良の余地があるな。時々忘れるし、ボタンを酷使するのも良くない」
「はぁ……。」上手くリアクションできずに私が居ると。
エレベーターはピンポーンとそのドアを開いた。
 地下空間は、夜の病院というより、私に夜の水族館を連想させた。
薄暗い照明がブルーを基調としているからだと思う。
 間取りは、一階と全く同じになっていて。待合室の椅子から、掲示板の位置までも一緒である。決して背景のCGを使い回したいからこうしているとも思えないのだが。
 先輩は、その待合室の椅子に鞄をおろして、イクルミちゃんの頭を取り出すと、小脇に抱えて。
「どうする?あんたも一緒に来る?それとも、ここで待ってる?」聞いてきた。
私は勿論、
「お供させていただきますと」意気込んでいったわよ。
言ったあとで、グロかったらどうしようという不安が一瞬頭をかすめたけど、後の祭り。
 Pタイルの床に私と先輩の足音だけが、コツコツと響き渡っていた。

 機械を開けて、そこにイクルミちゃんの頭を入れて蓋を閉じ、セット完了。
先輩がボタンを押してスタートさせると、後は待つばかりである。
「どのくらい時間がかかるんですか?」
「二十分くらいかな。普段は体はそのままで、バックアップとるだけなんで三分くらいで済むんだけどサ」
そうなのである、イクルミちゃんは廃墟と化したアジトの内部で頭だけ探し出してここまで持ってきたのであった。
「頭が無事で良かったですね」私がそういうと。
「いや、別に頭が駄目なら駄目で、イクルミちゃんは復活できるんだけどサァ。やっぱり記憶の連続性という意味で、それに事件の貴重な目撃者、生き証人でもある訳だからね」フライトレコーダーかと少しイクルミちゃんに同情する。
 待ち時間の間だ、私は先輩に給湯室の場所を聞いてお茶を煎れた。
イクルミちゃんの分は要らないから、二人分で良いのかな。
二人分のお茶を煎れ、飲み終わる頃には、作業は完了し、
「ピーッ」ブザーが鳴ると、扉が開いて中からイクルミちゃんが出てきた。
ニコニコして、手を振っている。良かった、すこぶる元気そうジャン。
 私はイクルミちゃんに近寄ると、おそるおそるイクルミちゃんの手に触れ、そして抱きついた。
「お久しぶりだよね」
そうだ、私たちは過去に飛ばされて、返ってきたらこんな事になっていて。
「おかえりなさい」
「イクルミちゃんこそおかえりっ」
グスン。
「哲っちゃんは涙もろいなぁ」
「泣いてません」
そう言って、振り返ると先輩はボロボロ泣いていた。

 「むぅ~私のお茶がない」
「あぁ、ごめん。こんなに元通りだと思わなかったんで」
私はお茶を煎れるべく給湯室にかけだした。
 三人で丸いテーブルを囲んで座り、お茶を頂くことにした。
先輩が切り出した、
「一通りデータは見たわ。でも、イクルミちゃんに説明して貰おうかしら」
「はい。博士と哲子ちゃんが過去に行った次の日に、見たことがない数のスライムを引き連れた菊池姉妹が、アジトを襲撃した。多勢に無勢、アジトが堕ちるの時間の問題で、私は時間稼ぎするからみかかちゃんに逃げてっていったんだよ。」
「でも」
「うん、みかかちゃん逃げないって。そうこうしているうちにワタシからだが突然動かなくなっちゃって」
「なるほどね」
「どうしてみかかさんは逃げなくて良いって言ったんだろう」
「みかかは敵に連れて行かれた、投稿したんだね?」
「うん、そうだと思う。はっきりと見た訳じゃないけど!」
 
「イクルミちゃんの体が動かなくなったと聞いて、まさかと思ったんだけどねぇ。メンテナンス工場の状況と、みかかのもの言いから見てーみかかはわざと捕まったんじゃないかな」
「まさかっ」
「言い方が悪かったかな、自分の意志で敵側に身柄を押さえられた」
「あの時ワタシの体が動かなくなったのもみかかちゃんの所為?」
「うん、ここの、メンテナンススケジュールがキャンセルされてたの。それで、イクルミちゃんにメンテナンススケジュールが正しく発信されていなかったのね。そんなことが出来るのは、私とみかかしか居ないわ」
「あとは、先輩がミスしたかですよね」私がちゃかしてそう言うと。
ギロリと先輩ににらまれた。私は体を小さくした。こわいよ~。
「でも、どうしてみかかちゃんが敵にわざと掴まろうとするんだろう」
「それは、ちょっと私にも解らないけどな。けど、状況から考えると、わざと掴まったとしか思えないジャンか」
 まぁ、自分で逃げないってイクルミちゃんにそう言ってるんだから、そうだわな。

「所で思ったんですけど」私は手を挙げて発言する。
「おかわり?お願いするわ」
もう、お茶も冷めきっているけど、
「そうじゃなくて」
「あら?」
「菊池姉妹って何人いるんですか?それに、彼女たちの適当な名前も気になってるんですけど」
「ほぅ、哲子ちゃんも気付きましたか」
「?」
「菊池姉妹はイクルミちゃんと同じよ」
「まさか」
「人造人間なんだよね」
「ええ~っ」

「一体全体どういう事ですか?なんで敵も先輩が作ってるのよ!」
私が声を荒らげてそう聞くと、
「いや、私が作ってる訳じゃなくて、技術移転というか、研究データは敵さんも同じのを持っている訳でさ」
 私は人造人間の存在さえも知らなかった。それは、私がテレビや新聞を読まないからではなくて、知らないのが普通だよ。
人知れぬ所で、深川と東陽町は飛んでもないことになっているなと、私は思ったのだった。

「それで、どうしようか~」
今度は何を考えてるんだ、先輩。
「みかかちゃん居ないと寂しいよ」イクルミちゃんが本当に寂しそうに言う。
まだ死んだ訳じゃない。
「そうだよね~なんかかっこつかないし、取り敢えず?」
何。
「作っちゃおうか!みかかちゃん」
「ヤッホー」立ち上がり、大喜びするイクルミちゃん。
おいおい。私は顔面蒼白する。
「作れるんですか?」
「うん」
そんな嬉しそうに肯定しないで。
「だって、みかかさんまだ生きている可能性が」
「いや、生きているだろう」
いぶかしがる先輩。
「哲子ちゃん、みかかちゃんを殺さないで~」
あうあう。
 まぁ、良いか。出たとこ勝負で。
どうなるか私も楽しみだし。ただ、この時脳裏をよぎったのは、人造人間の私も既に出来上がって居るんじゃないんだろうなぁという、そんな居心地の悪さは感じた。
 「いつ出来上がるの?」
「一週間ぐらいは見て欲しいかな。その間にあんた達二人でポリ容器置き場の掃除よろしく頼むわ」
うへぇ。
「あそこはもう危険じゃない?」イクルミちゃんが先輩に尋ねる。
「イクルミちゃんがちゃんと動けば問題ないでしょ。勿論、セキュリティーは強化するけどね。他に、最適な場所が思いつかないし。だって、町中の自販機がアジトに繋がってるの、全部作り直すの大変じゃないの」
確かに、もしあれをどこか他の場所に繋げ直すとしたら、相当に大変だろうと思う。
 と言う訳で、翌日から私とイクルミちゃんでアジトを掃除する日が続いた。
この頃、陽気は段々と暖かくなってきていて、アジトと言えば、洪水被害にあった家屋よろしくな状況な訳で。
「くっさ~~」
マスクしてても猛烈な臭気です。
そんな中、てきぱきと豪腕で粗大ゴミを運び出すイクルミちゃんが羨ましい。
「イクルミちゃんは臭くないの?」
「臭いけど、我慢できるから」
「どうやって?」
「嗅覚をカットすれば良いんだよ」
ごめん、それ私には出来ない……。

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