アジトに戻ると緊急対策会議が開かれた。
議題は勿論
「哲子、深川の黒幕があなたのお母さんだっていうのは間違いない?」
みかかさんがそう質問する。
「はぁ、多分。」
「多分じゃ困るのよ」みかかさん苛立っている。
無理もないか。
「哲子のお母さんが、家を出ているって言うのは聞いてた」と先輩。
「でもまさかねぇ、敵の黒幕だなんて」
本当に、信じられない話だ。それは勿論私にとっても。
「世の中狭いって事だね」イクルミちゃんはそう言うけど。
「いや、そうじゃない可能性も」みかかが指摘した。
「まさか…。」
注目が一斉に私に集まる。
「私と対決したいからって事ですか?」そう口にして愕然とする。
「あり得ない話じゃない」
「でも、だって。哲子ちゃんを引っ張ってくる前から、黒幕は居たよ?」
「それも敵さんの想定内だったって事ね。哲子が深校に進学することも想定済みだったんでしょ」
一同黙り込む。
「まだ、そうと決まった訳じゃない」
みかかさんはそう言って立ち上がると。
「写真が欲しいわね。ある?」
「はい。家になら、あります」
「そう、じゃぁ、一度みんなで哲子ン家に家庭訪問しましょうか」
「ええええ」と、苦虫を噛み潰したような顔。
先輩もイクルミちゃんも
「うほっ行きてぇ」とノリノリである。
「あの、うち、そのブルセラショップで。怪しいですよ?」
全然気にしない様子でいる皆の衆。
あぁ、ブルセラショップを単純に一度見ておきたいんだなー。
逝けば解るさ、そこがいかに恐ろしい場所だと言うことが、嫌でも。
私は、父親のボロ車に乗っているところを友人に見られるのが嫌で嫌で、近所を通り抜けるまで身を潜めていた押さない頃を思い出した。
そして、その日はやってきた。
家庭訪問の日である。
目的は、母の写真の取得なのだが、そんなもんは別に?
私が持参すれば良いだけの話で、家庭訪問の必要性等どこにも!ないはずなのだが。
ブルマオフは、お店と言っても駅前の一等地にある訳ではなく、看板こそ出しているものの、それは雑居ビルの二階にある。
その日、父にはメンバーの来訪を告げず、しこたま憂鬱な気分で訪問を待ち受けていた私であるが、果たして本気でお店に、三人がやってきた。
今日は日曜日なのに、みんな制服姿である。
言わなくても、ちゃんと解ってらっしゃる。
ちなみに、私は家着の制服を、イクルミちゃんは制服となっている?真っ白ないつものビキニ姿。あぁ、あんたそれで地下鉄に乗ったね?
「いらっしゃい」と言いつつ、流石に親父も眼をパチクリさせている。
イクルミちゃんが奥にいる私を見つけ、手を振るので、
「哲子、まさかお前の友達?」
「まさかとか言うな」
「そうですか、こいつ友達が来るなんて一言も言わないんで。知ってれば準備の一つも、ねぇ」
娘の友達に初めて会った父は、キョドっていた。
泣くないで、お父さんキモ悪がられるから!
「哲子さんにはいつもお世話になってます」と先輩が会釈をし、
「これ、つまらないものですが」とやおらパンティーを脱ぎ出す。
イクルミちゃんもそれに続いた。むろんビキニを外したら、生まれたままの姿であるよ~。
みかかさんは、予想してたけど、こういう所に全く免疫が無く。
贈った大型プラズマディスプレーが店内に設置あるのを見つけ、それに近づいたは良いけれど、それにブルセラ映像が表示されると、ズバッとそこからも飛び退くという、徹底ぶり。
一体、どうして来ようとしたのか理解に苦しむ有様です。
見てて楽しいけど、笑っちゃ悪いか。
イクルミちゃんは、脱いじゃったので、私のズボンをあげました。
ノーパンでパンツ(ズボンのことだよ)穿いても、挟む心配がないのはすばらすぃ~。
親父にとってはどうでも良いかもしれないけど、私は一応彼女たちが今日来た理由を告げる。
「母さんの写真が見たいの」
親父の顔から一瞬笑顔が消えたが、すぐにスマイルを回復し、
「おうぅ。いいよ、いいよ!哲子お前場所解るか?皆さんに見て貰うといい」
「一枚貰うよ?」
「あっコピーするだけで結構ですから」と店内でうろたえていたみかかさんが言った。
そうして、みんなでレジの奥の居住スペースへと入っていったのだった。
親父の手元には脱ぎたてのお土産が二つ。
モカ・エクレアじゃないって!!
お父さんの許可も得たことだし、私は押し入れを開けて中に頭をツッコミアルバムを発掘した。
実は、お父さんが拒否した時のことも考え、あらかじめ一枚こっそり先行入手していたのだが、アルバムは元通り奥に戻してあったのだ。
一苦労して、取り出した、アルバムをちゃぶ台の上に置くと。
「これです、どうぞ。見てて下さい」と言い、恥ずかし差に後ろ髪を引かれつつも、私はお茶とお茶菓子の準備をするのだった。
「それにしても、すげぇなこりゃ」先輩がアルバムをパラパラ見ながらそんなことを言う。
「そんな事無いですよ、全然普通じゃないですか~」
「あんんたこれ、全然普通じゃないよ」眉をひそめながら、みかかさんが私にそうとどめを刺した。
「だってこれ」
「ブルセラの商品目録じゃないの?」
「っていうか、目にマジックで線が引いてある写真は、普通のアルバムに収録されていません!」
「そうですか~?」セロハンのカバーをめくってみても、ただの透明。やっぱり目線は写真にダイレクトですか、そうですか。
みかかさんはお母さんの写真を数枚イクルミちゃんにスキャンさせると
「お父さんに、お母さんの話聞けないかしら?」と私に小声で言った。
「そんなこと頼んだら奴喜んじゃいますよ?」
「じゃぁ、哲子はお父さんとお母さんの昔のこと知ってる?」
うっ。
「あまり聞いたこと無いです」私がそう言うと。
先輩が
「お父さんすいませ~ん、ちょっとお話良いですか?」と立ち上がり父にそう声をかけていた。
店番をイクルミちゃんと換わり(大丈夫なの?)お父さんが部屋に入ってきた。
やっぱり、デレデレしちゃってるよ、頭がまぶしいっての。
私が、うげぇという顔しているのを気にも止めずに、っていうか、私の顔見てない。
お父さんは、お母さんとの馴れ初めをペラペラと語り出す。それは、私も聞いたことがない、初めて聞くような話であった。
「ワシがお母さんと出会ったのは、大学でだった」
「ブルセラショップなのに大学出、むぐぅ」
先輩とみかかさんが一斉にイクルミちゃんの口を塞ぐ。
「スミマセン、お父さん」アハハと顔色をうかがう先輩。
「いや、いいよ。大学にも色々あってね。文学部でしかも哲学科に入ると、就職は放棄しているに等しいからね。エロマンガ家になったり、バイクの修理屋さんになった知り合いもおるよ。真っ当に就職した奴も居るんだろうが。」
「そして、おじさまはブルセラショップを始められたんですね」
「そうです。恋に落ちた母さんとワシは、大学を出たはいいですけど、就職は決まらず、子供を抱え途方に暮れておりました。そんな時、ミス・キャンパスだった母さんに、写真のモデルをしてくれないかという話が舞い込み、ワシがこっそり撮影に使った衣装を好き者に横流ししたのが、この店の始まりなんです」
……。
とーちゃん。一同絶句。
「で、では。ブルセラと言うよりも、最初から、哲子のお母さんで保っていたお店なんですね、ここ」
「恥ずかしながら」
「紐なんだー」
あー。うちの父ちゃんは紐だったんですね。紐ですね。
「それはお母さん、哲子に負けたら、出て行っちゃうのも仕方がないかもね」
「他に男が出来たんじゃ」
……。
「私、捨てられたんだ」
「バカッそうじゃないぞ。父さんとお前が母さんを捨てたんだ」
……。
「そろそろおいとましましょうか」
「お父さん、色々ありがとうございました」
「ま、待って下さい。えっ」
「バイバイ、哲子ちゃん。また明日~。それからズボンありがとうね~」
カランカラン。
ブルセラショップに取り残された父と娘は、その日口をきかなかった。
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