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日曜日, 6月 24, 2007

プロローグ

「哲子様っお願い!この通りだっ」ガバッと目の前で土下座する小柄な中年男性は哲子の実の父親である。
所は高田馬場のブルセラショップ。
時間はマジで午前八時する五秒前。
朝である。ごきげんよう!
 場所が不健全、シチュエーションはミステリアス、でも、時間だけが健全。
お日様も昇って今日も良い天気になりそーだっ。
だって今日私、入学式ですから。
 私の名前は哲子。
今日から深川高校に通う女子高生。
偉い人は言いました。華の命は短い恋せよ乙女と。
 私もこれから始まる高校生活に心をときめかせていました、昔は。
元々うちは私が生まれた時からブルセラショップを生業としていました。
そんな訳で私も物心つくまで、別段何とも思って来なかった訳ですよ。
父からの英才教育をそれはもう、ボクシング3兄弟みたいな感じで、施されちゃいましたから。
 転機が訪れるのは、小学校に上がってから。
露骨にお友達からこう言われましたからね。
「お母さんにぃ、ブルセラショップの子とは遊んじゃいけないって言われた!」
子供の心を揺さぶるのに十分な一撃でしょ?
家に帰って私はママに泣きながら聞いたんだ。
「ブルセラショップの子と遊んじゃいけないって言われた」
ママは
「仕方がないわね」と私の頭を撫でて慰めてくれたけどー、
勿論、その時ママは高校の制服姿である!
 私が中学に上がると、更にまたある転機が訪れた。
うちの店は、勿論買取もやってましたが、メインは自主制作で、
それはつまりママがうちのブルセラショップ『ブルマオフ』の看板娘でエースだったのです。
 需要があるので私も幼い時から、自主制作に参加してましたけど、
それが、私が中学生になった時に均衡を崩しちゃうのです!
 つまり、私の売り上げがママのそれを上回ってしまったと……。
「ママさんショーック」くらくらくらり。
人気商売ってのは、全くもって無情なものですね。
 娘の私に負けたママは、笑顔で娘の成長を祝福してくれたくれたものの、翌日
『探さないで ママ』と書き置きを残して失踪したのでした。
 それ以降、今日までの三年間は、父と娘の二人三脚で店を切り盛りしてきましたが、
都知事によるブルセラ弾圧と、顧客のリストラのダブルパンチで、ブルマオフの経営は火の車、閉店寸前まで追い込まれていたのでした。
そこで、父さんが私に提案したのは。
「すまんが哲子、高校で友達を百人作ってくれ。そして、制服を売ってもらうんだ、いいな?」
私だって、ちゃんと抵抗をね、したんだよ。
「高校デビューなのよ。やっと、同じ中学から一緒に行く人もいない。人間関係リセットできるのにぃ。電車通学だし、うちの商売隠し通せるまたとない機会よ」
私の力説は続く
「初めて友達が出来るかもなのに、作っても制服を売ってよって聞かなくちゃ~なんて。あんまりだよ、お父ちゃん!!」
私は泣きながらダッシュして店を飛び出した。
 二日後、お腹を空かして、私が店に帰った時には、ある程度自分の中で納得済みでした。
だって、私をここまで育ててくれたのはブルセラなんだもん。
勿論、幼少の折より、私だって協力してきたけど。
だから、心の底から私はブルセラを嫌いな訳じゃない。
血は争えないってやつ?
 それに、いくら都立高校と言っても、学費は納めないとならない。お金が必要。
せっかく合格したのだからサ。
 とてつもない大きな溜息を連発したけど、そうして私はブルセラショップに帰ってきた。
スイマセン下着を売りに来たんじゃないんで違うんで、と店内に居たお客を軽くあしらいつつ、そそくさと私はカウンター奥の居住スペースに戻ったのだ。
 で、冒頭のシーンに戻る。
頭では、納得していても、素直に
「行ってきます」なんてさわやかに店を出られるわけ無い。
そのくらいのヒステリーは大目に見ていただきたい!!
でも、素直に出ておけば、あんな事態には……。
 私の、ゴネる様を見て危惧したお父ちゃんは、私の背中に貼り紙をしたんだよ。
これから電車に乗って通学する私の背中にですよ!?
もうホント信じらんない!

 高田馬場の駅から深川高校の最寄り駅である東陽町駅までは、地下鉄東西線一本で行けます。
最も混雑する区間は反対方向(上りになるのかな?)なので、比較的優雅に通学が可能。
これから三年間”痛”学とはならないのは、嬉しいよ。
 初めての電車通学、大手町を過ぎた頃から、同じ制服の生徒も車両に目立ってくる。
「来た来たキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!」と興奮を押さえれない私。
周りも私の方を指さしたりなんかして、なんかヒソヒソしているよ。
みんな興奮してるんだね、きっと。
 そうこうしているうちに電車は東陽町駅のホームに到着する。
うむ、ずっと地下区間なので外の風景を楽しめないのがちと残念かななんて思いつつ、
でも、つり革を放した瞬間からそんな些細なこと、頭の片隅にふっ飛ばし、ついでに懸案である制服の仕入れのことなんかも忘れてみた。
 それなのにー、
「あなた、制服に興味がない?」
「えっ?」
振り返るとそこには、金髪の女の子が立ってた。
 電車から下車した瞬間、東陽町駅のプラット・ホームでの出来事。
階段近くのドアから降りたので、周りから階段への人の流れが私たちを避けて通る。
ちょっぴり通行の邪魔してる。
 やがて、ホームから人が階段に吸いこまれ、次の電車がやってくるまでの刹那、金髪さんは、私に向かってこう言ったのでした。
「付いてきなさい」ポンと私の肩を叩き、先を行く。 。
えっ?えっ?
エスカレーターに後追いで乗っかると
「だって、私はこれから入学式なんですよ!」

 この時私は付いて行ったのではなくぅ、どうせ駅から出るんだし、途中まで、そう、偶々道が一緒だったんですから、ただそれだけなんです。
 その時、上から風が吹き抜けて、お姉さんの金髪がふわっと。
髪に手をやる姿に心がときめいた。
あれ?
「私と同じ、制服」
そう、お姉さんは白衣の下には私と同じ深川高校の制服を身につけた先輩でした。
「あなた背中にこんなの付いてるよ?」
ビッと、横向かされた私の背中から何かがはがされる。
「痛っ」髪の毛も一緒に数本抜けました。
「あっごめん」
「はい、これ」と手渡された紙に目をやると。
「制服買います ブルマオフ」
私は体中の血という血の全てが頭に集まるのを感じた。
 固まっている私を、心配したお姉さんがのぞき込む。
「ねぇ、ちょっと。大丈夫?」
「えっはっはい。大丈夫です。」
混乱した頭の中で、あれ、これは超終わっちゃったかなー、それともまだセーフ?と計算してみる。
不思議と父ちゃんに対する殺意はこの時点では皆無で。
脂汗ダラダラで固まっている私の横で、
「入学式は出ないと駄目、だよね~」う~んと、猫みたいなの口して、そこに指を当て考えるお姉さん。
何か閃いたみたい。
「録画しておいて上げるから、それをあなた後で見れば」
これで決まりだね~的な。キャッホー。
私の口から溜息がモレキタス。
まぁ、ぶっちゃけどうでもいいかな、入学式。
出だしから?秘密がバレたし。
仮にだよ学校の廊下でお姉さんと出くわしたて
「あっ制服を買いますの人だ」とか挨拶されたら、それで終わる訳だし。
 取り敢えず、駅から出ると、ルンルン先を行くおねえさんの後ろを、私はトボトボ、付いてきました。口止め出来るかなぁ。
「あっマックだ」
どうやら最初から学校とは逆の方向。
「ん?君はお腹が空いてる?朝食は食べてきた?」
お姉さんはそういって振り向くと。
胸に手を当て、私に自己紹介した。
「私は園子」
ニコニコ返事を待っている。
「哲子です」
「哲子ちゃんか~、哲子ちゃんね~」と口に馴染ませるように繰り返す。
ごきげん指数がプチ・アップしたように見える。
園子さんの後を私は、相変わらずトボトボ付いて行った。
 私にも変化があったかな。視野がわずかに上昇したかもしれないな。
名前覚えるの苦手な私。
メモした方が良いかな、とかとか考えながら、トボトボ歩く。
角を数回曲がり、車に注意して、横断歩道の無い場所で渡ると。
「着いたーここ」と。園子さんが、私に向かって宣言したのであります。
「ここが」私は、ここがどんなところか理解しないまま、取り敢えず扉の文字を音読していた!
「ポリ容器置き場」
「ポリ容器置き場へようこそ~哲子ちゃん」
「歓迎するわ」と言いながら、ドアノブを引っ張り私を内部へ入れようとする。
中は、どうやらこの建物のゴミ捨て場の様ですが……。
 この時の私には、全力ダッシュして逃げるという選択も十分選択可能でした。
ただ、元々実家がすこぶる怪しいので、怪しさセンサーが麻痺していたのと、それとそれと!好奇心とで、私はなんと素直に園子さんの後に続いて扉の中に入った。
 後ろで戸が閉まる。ガシャーン。
中は、ゴミのなんだか甘ったるいスメルが充満している。
思わず、手で鼻を覆いつつ。
「ほほに制服が?」
「無いよ、ちょっと我慢してね、征服があるのはここの先」
奥?
園子さんが、カードキーをのっぺらぼうのスイッチみたいな所にかざし、二言三言合い言葉を述べると、宇宙船のような明き方で、壁が割れて行くではないすか。
穴の向こうはスモークと光が満ちあふれ、スモークが今開いた壁穴から床伝いにあふれ出している。
「我々のアジト、ポリ容器置き場へようこそ」

 地下に続く謎の階段、ドアの開き方からもう、私は、
台風が来た時に感じるあの、胸のざわつきを感じていた。
 園子さんに続き、スモーク漂う足元に気をつけながら階段を下りていく。
そこがどんな地下室でも、ゴミ置き場に居るよりはマシだと思わない?
 私が、カーブしながら下っていく階段を、手すりに掴まりながら慎重に降りだすと、後ろでは静かにSFじみたドアが閉じた様だ。
階段は薄暗かったが、元々ゴミ捨て場が、コンクリート打ちっ放し、蛍光灯に換気扇だった所為もあり、目は割と順応していた。
 階段を下りきると、そこには一般的なスチールの扉と、玄関マットが敷いてある。
園子さんがドアノブに手をかけてドアを引き開けると、カランカランとベルの音が地下に響いた。
 私がおそるおそる中に入ると、そこには地下ながら、快適そうな居住空間が拡がっていた。
コンビニのように明るい照明に空気清浄機が二台、床はフローリング張りで、白い清潔感の感じられるカウンター席が目に飛び込んでくる。
 カウンターの向こうには、にこやかに微笑むピンク髪の少女が一人。
頭にヒマワリを咲かせてる。
私が軽く会釈すると、会釈返してくれた。
 園子さんが入り口を左に折れたので、そちらに視線を移す。
観葉植物の影にもう一人、ノートパソコンを開けて、椅子に腰掛けている、おかっぱの女の子が確認できた。
「ちょっと園子。どういう事?」
「なぁに?」
「またなの?」
こっちに気付いてくれたのか、チラッと視線が来た。
私は、どもっと、また軽く会釈を。
だが、ノーリアクションで、パソコンの画面を眺める彼女。
 と、取り敢えず。
そこにかけててと、カウンターの椅子を指示され、私はそこに座る。
「お茶と珈琲どっちがいい?」
頭にヒマワリを咲かせたピンクのロングヘア、褐色の肌に白ビキニという、一回りしてしてこの地下空間に相応しいのかも知れないと思ってしまう様な、南国風の女の子が私にそう問いかける。
「お茶で」お願いします。
取り敢えずお茶にした。
どっちにしても、味わって飲めるわきゃないし。
「この子は違うんよ」
「どこが?」
「制服が得意なんだよなっ哲子ちゃん?」と唐突に私に話を振られた。
「ええ、制服には一応詳しいですが」と作り笑いして答えると。
「あらっ」とその一言で、それなら話は違うと言いたげに納得してる、おかっぱさん。
トロピカルな彼女がにこやかに私にお茶を差し出してくれた。
 ホッと一息ついた園子さんは、眼鏡を外して、ハンカチで額の汗をぬぐうと、お茶を要求
「イクルミちゃん、私もお茶欲しいな」
「解った」こぽこぽこぽ。
「取り敢えずこれで落ち着いて話せそう」と私にニカッと笑って見せてた。
 少しするとトロピカルなイクルミちゃんが新しく四人分の飲み物とクッキーを用意してくれた。
「征服に詳しければ、問題がないのはー」園子さんが、ストレートティーで喉を潤してから話しだす
「ここが征服をする所だからです」おかっぱさんとイクルミちゃんもウンウンとは頷いている。
けど私は頭の中がクエスチョンである。
制服するとは、コスプレ?
「何の制服を着るんですか?」
「あーそうじゃなくてね」
「我々はテロリストです」ここで、三人の声が揃ってしまった。
いや、お見事と言うべきだろうか。
正直私は軽く涙していたよ。
「あはは」
 
 「で、私をどうするつもりですか?家は貧乏ですけど」
「身代金なんて取らないわよ」おかっぱのテロリストが言った
「だってうちお金持ちだもん」園子さんとイクルミちゃんがおかっぱのお金持ちさんの肩と腕をマッサージしている。
「あのう、あなたは?」
「あぁ、私はみかかね。そっちのピンク髪がイクルミ」
「ど、どうも。哲子です」
 部屋を見回すと、コンクリート打ち付けの部屋で窓こそ無いものの、空気清浄機や大型プラズマディスプレーなど、そこはかとなくお金の香りがする。
少なくともうちよりは全然!
「まぁ、なら何です?何を征服?日本を?」
「惜しいっ我々は東陽町を深川から解放しようとしてるの」とみかかさんが説明った。
ここから、園子の演説が始まる。
「東陽町は深川に征服されている」終了。短っっ。
「っていうか、ここって深川なの?深川って門前仲町とかなんじゃ」と高校から東陽町デビューの私は率直な質問をクッキーを口に放りこんでからしてしまった。
 どよめきが起こる。
マジか!?
三人の意見のすり合わせが終了した様だ。再開する。
「これを見て欲しい」みかかさんの提案である、地図を見る。
「深川郵便局に深川車庫、深川高校。あっこの銀行は深川支店ですね」
「そう、深川に占領されている事が解っていただけかしら?」
そこで紅茶を優雅に飲んだみかかは「おーほっほっほ」と勝ち誇って笑った。
その高笑いに、何故か協調して笑うイクルミちゃん。
「それが我々のしている活動目標ね、で手伝ってくれるよね?哲子ちゃん」と私をここに連れてきた張本人である園子が言う。
「何で私が」私がそう言い捨てたのも至極真っ当であろう。
こんなやばい事に、足を突っ込まないとならないのだろう。
聞いちゃったけどさ、計画…。
 あぁ、もう生きては帰れずに、ポリ容器置き場のゴミとなり東京湾に沈められる運命なんだろうか。
お父さん親不孝な私をお許し下さい。
等とオヤジの顔が思い浮かんだ刹那、朝の仕打ちが怒りとなって私を急襲した、全身駆け巡ったね。
「まぁ、一応仮入部?ってことで」小さく手を挙げて私がそう言うと。
「おおっ」どよめきが三人からわき起る。
 まだ朝の九時過ぎのはず、朝からする話じゃないと思うものの、この部屋は地下だから窓がないし。
いや、ゴミ捨て場の奥の地下か。核シェルターなのかな?
「じゃぁ、固めの杯にあれを出すわ」と園子さんが。
何故か他の二人から笑顔が消えて、どんよ~りしている。
「あれ?」
「哲っちゃん、約束の朝食よ~。腕によりかけちゃうんだから」
「それってこのクッキーじゃないんですか?」一枚更につまんで聞いてみる。
「それよりもっといいもの」と悪戯なほほえみを湛えながら、園子は奥に消えていってしまった、
 園子にも今日初めて会う私だが、更に面識の薄い二人と残されてしまった、どうしよう。
園子さんが見ていない所で、何されるか解らないのである。再び緊張する。
 所が二人とも、私など殆ど眼中になく、各々、吐瀉用のバケツだの、味覚を殺す方法など、何かの準備に余念のない様子。
それが何なのか私にはよく解らないが、私はそれをぼんやり眺めつつひたすら園子の戻ってくるのを待つのだった。

「お待たせゴメン」と戻ってきた園子の手にはお盆と、その上に謎の料理を装ったお皿を乗せてやってきた。
「何故割烹着?」
「えへへ、似合うでしょ~」
「ええ、似合ってますけど」コスプレがここでは当たり前なのか?
 私の目の前に出された料理は何?
悩む必要もなく説明がなされたのでそれを引用してお伝えすると、
この料理は「東陽ライス」という名前らしい。
んで、見た目白いのがヨーグルト
スプーンでかっぽじると中にはあさりあさりあさり!
そして申し訳程度にお米!である。
「私思ったのよ、深川めしがあるのに東陽町にそれに対向するご飯がないと、東陽町が独立に成功した時困るじゃない!!」
「深川めしをそのまま東陽ライスに名前だけ換えて済ます事も出来るけどそれじゃあまりに芸が無いでしょ」
「あさりが売りなら、いっそのことあさりとご飯の割合を思いっきり逆転させる発想の転換が凄い!」
これはライスと言うよりあさり。
うわぁ、向かいの面々が、あぁ、また犠牲者が増えたというような気の毒そうな眼でこっち見てる。
少しは同情してくれているのだろうか。
二人とも、勿論東陽ライスに手を付けてない。
 ジーッと園子が私を見てるし、前の二人もそれに便乗する形で私を見ている。
 これは、どうやら私が最初の犠牲者らしい。
逃げ道はないのか。選択肢出ろ出ろ!
「あれぇ、君はあさり苦手?」出ねぇ~~。頭を抱える私。
好きとか嫌いとか言うレベルではないのですよ……。
物には限度という物があると思うのだが。
「あさりは、別に嫌いじゃないんですけど。特別に好きという訳でも」
そう言いながら弱含みで笑ってみせる私は立派でしょ?
あうぅう。
一縷の望みではあるが、食べず嫌いの可能性もあるなと、自分を鼓舞する。
空腹とかその辺の助けも借り、私は一口ぱくりと口に運んでみた。
「どう?お・い・し・い」
無言でコクコク頷いて、お茶で流し込んだ。
 え?まだなの?もう一口っすか?
味わってレビューらないと駄目なのだろうか?
どこまで拷問は続くの?神様あんまりです!
えいやっとう。パクリ。もふもふもふ、じわり。
 「ええ、とってもドリーミーでワンダーなお味がエクセレントな感じぃ」泣きながら言う私。
「でしょでしょ♪」
「しいて言えばあさりっぽいというか」
「うんうん」
「あさり」そこで私の記憶はとぎれる。限界だって。
 そういえばイクルミちゃんは東陽ライスが大好物なんだっけ。
バクバク食べたらしいからなぁ。
これが蓼食う虫も好き好きってやつだろうか?あり得ません。
 どうやら、これで私も”晴れて”秘密結社の仲間入り果たせたみたい。
あれだけのものを食べたのだから、そのくらいの見返りは当然という気がする。
「これ」と、机の上の私の目の前にみかかが、ガジェットを私に支給してくれた。
「ケータイ??」私もケータイくらい持っているのに、どうして?
「我々の活動に必須のアイテムだから常に携帯なさい」そういう事らしい。
スパイ道具?
その多機能ケータイとやらを手にとってその二つ折りを開ようとすると
「危ないっ」とイクルミちゃんに凄い剣幕で止められる。
爆発でもするの?組織が組織だけにおっかなびっくりですよ。
イクルミちゃんは私の隣にやってきて
「爆発はしないけどねっ」とボタンを押してケータイをパカッと開いてニコニコご満悦なんだわ。
 後から知ったのだが、ワンプッシュオープンはパナソニックのケータイ電話の伝統であったらしい。
っていうか、これってパナ製なの?
 ポリ容器置き場は、マンションの横の路地に面していて、一応正面は街の電器屋さんパナソニックのお店!AV東陽になっているのさっ。
AVをアダルトビデオの略称だと勘違いする人が後を絶たず、改称を常日頃から検討しているらしい。

 その入学式の日から私は、帰っても店手伝わされるだけだしね。
学校が終わると、ほど近いアジトに詰めるのが日課になった。
私としては課外部活動みたいな軽い感じでね、参加してたって訳。
「こういうのも友だちって言えるのかなぁ」なんてにやにやしながらポリ容器置き場に通っていたんだね。
 「コーラにホットコーヒーに緑茶ですね」
新入りの私の役割は、要するに使い走りである。
 アジトには立派じゃないけど、それなりの給湯設備や冷蔵庫が備わっているのに、
どーして自販機へお使いなんて行かなきゃならないのだろう?
先輩方に言わせると
「これも修行だから!」修行らしい。
一体何の修行?修行者が理解して無くて果たして修行になっているのだろうか?
 一度いつも飲むの同じなら、ペットボトルで買ってきて小出しにした方がお得だと思って西友で買ってきてみたら烈火のごとく怒られた
 無言で叩かれた?気が抜けるとか、運が悪い?とか言う理由でね
取り敢えず、割高だけど自販機で買わないといけないって事。
 実は、東陽町にある伊藤園の自販機は、アジトへのヒミツの入り口でだった。
新入りの哲子が、お使いに出されていたのは、ボタンの押す種類を体で覚えさせるためだったのだ。
 ホットコーヒーと緑茶とドクターペッパー。
この三つと最後に哲子が自分で飲む用の水を押すと。自販機は補給するための奥の扉が開く。
そこから地下へと繋がるスロープを滑り抜けることによって、地下アジトへの帰還が可能なのだ。

 「まずあんたにはっ!聞いてる哲子?このケータイの使い方を習熟して貰う必要があるからねっ」先輩の園子さんが熱弁をふるう。
今後は園子さんの事を先輩と呼称しますね。
「習熟も何も、ケータイくらい。いくらうちが貧乏でも私も持ってますよ、ホラ」そう私が言い放つと
「甘い!これはただのケータイじゃないんだからね!」
と私にねじり寄ってくる。ひっつかないでっ!
「解りました、教えて下さい」
「素直で宜しい!それじゃ、外に訓練しに行くよ~」
「あっハイ」
「と言うわけで、ちょっと出てくるから」
「いいってらっしゃい」イクルミちゃんがそう言って見送ってくれる。
「あぁっお茶飲みかけ」
私は冷めたお茶を一気飲みして
「ごちそうさま~」と言い残して、先に出た先輩を追っかけてアジトを飛び出した。

さて、私は実地訓練に出かけたのだが、その日は空振りであった。
どれだけ探しても、敵に出会わなかった。そういう日もある。
「ありゃりゃ、やっぱり夜じゃなきゃ駄目かもね。哲子ちゃん夜は遅くなっても大丈夫?」
「はい、終電間に合えば」
「オッケー!オッケー!」と言った感じで、その日はいったんアジトに戻ってから、西友に行って食材を買ってきてアジトで自炊をした。
というか、私が一人で作ったんですがね。
「カレー」リクエストしたのが、イクルミちゃんなのでーそこに、他意は存在しないと思います。
「いただきまーす」
みかかさんは出されたものは文句なく食べるタイプですね。
先輩はスプーンを口にくわえる様子が可愛い。
 流石はパナソニックのお店にあるアジトです、パナホーム?パナアジトか。
金回りが良く、ここには食器洗い乾燥機も完備されてあったので、おっかなびっくりそれを使うのも楽しい。
勿論、洗濯乾燥機も完備、ドラム式である、がタイムマシンではないですね。
「洗濯機の中に入るの嫌だし」先輩とみかかさんにシンクロで駄目出しされた。
「タイムマシンはこれで」ペチペチとケータイを示す先輩。
「えっ?」
「そのうち説明するけど、このケータイはタイムトラベル?時間を遡る事も出来るのよ。未来には行った時無いけど、行けるね?」
無言で頷くみかかさん。
「スゴイ科学力ですね」私はマジマジ自分に支給されたケータイを見つめた。
「うん」
「まぁね~」この時私はまだ、タイムトラベルにいかに苦しい目に合わされるか思っても見ていない訳だけど。
だって先輩達、机の引き出しからタイムマシーンに乗りたいとか、意味が無いとかそんな事言いあってんだもん!
 お腹がこなれると、みかかさんをアジトに残して、私と先輩とイクルミちゃんの三人でいよいよ夜のパトロールというか、適当な敵を見つけて私にケータイの使い方を訓練しちゃおう作戦決行の運びとなったのでした。
 三人で夜の東陽町を歩いていると、昼間とはうって変わり、すぐターゲットと遭遇した。
「えっあれ、なんですかあれはっ」私は驚いた、だって見た事無いもの、あんなの!
「あれを我々は雑魚と呼んでる」先輩が答えてくれる。
そいつらは、夜闇に紛れていて、はっきりとした姿を確認できないけど、頭からボロきれを被った人間風。足元は真っ暗だからひょっとしたら幽霊かも。
「でも、どうして見えるようになったの?今まで見た事無いですよ!あたしあんなの!?」
「説明するのはこいつらを片付けてからねっ」先輩とイクルミちゃんは戦闘姿勢に入った。
二人ともケータイを手に持って身構えている。
「哲子はそこで見ててっ」ウインクしてそう先輩が言うと、イクルミちゃんが仕掛けた。 イクルミちゃんのケータイのアンテナ部分がバスケットボール大に肥大し、それをはじく事で中距離から敵をビシバシと押しつぶしていく。
本当に雑魚のようでその一撃で敵は潰されて消えて行く。
三体撃破し残りは一体。
イクルミちゃんが踊りながら景気よく、うごめく敵を潰している最中に、先輩は肩から提げていた黒くて大きい鞄のファスナーを開け、なにやら組み立てはじめた。
 戦闘中にこんなに準備に時間を最低よいものなのかしらと、オロオロしながら横で佇んでいる私。
「組み立て完了」
先輩が満面の笑みを見せる。その横には、古風なカメラが。
「これで魂を吸うジャン」
「これって、写るまでに時間がかかるのでは?」
「あ~その辺は改良してあるから大丈夫。見てて」
そういうと、先輩はカメラのあんまくの中に潜り込む。
まるで漆黒の獅子舞のような姿になった。時を置かず、手だけ出てくる。その手にはシャッターが握られていた。
ボフッと、連射の効かないフラッシュが焚かれると、確かに写真に写る場所にいた敵が消失している。
「ほえぇ~」
前方の的に集中すれば良くなったイクルミちゃんは、程なく残りを綺麗に一掃した。。
「お疲れ」
「おつかれさまです」
そう言い合いつつハイタッチを交わす、先輩とイクルミちゃん。
カッコイイ。私も、何もしてないんだけど、ハイタッチに加わった。
 
「どうだった?」先輩に感想を聞かれた私は。
「そうですね、私に出来るでしょうか。私運動神経悪いし、カメラとか組み立てるの大変そう」
率直にそう述べると。
「イクルミちゃんがやっていたのは私も出来ないから。あれは個人の特殊技能」
ピースするイクルミちゃん。
「それじゃ、私は先輩みたいにカメラマンになるの?」
「そういうことになるな。でも、安心して。これ使えばいいからさ」
そういって、ケータイ端末を指し示す。
「支給されたケータイ?」
「そう、カメラ付きケータイ」
「これで良いんだぁ、でも、じゃぁなんで先輩はそのカメラを使ったの?」
「あ~あれは趣味?」
「園ちゃんはいつも新人が入ってくるとそれ使うよね」
二人で笑っている。
私も釣られて笑いつつ、ケータイを握りしめる。その時の私は、胸の高鳴りを感じていた。
「戦闘終了!圧勝ね」先輩とイクルミちゃんはハイタッチを交わす。
取り敢えず私も、私もハイタッチ!
「どうするの?」アジトからモニターしていたみかかさんから応答が、
「そうね、今のじゃ腹ごなしにもならないし、次探してそれで今日は帰るって事で」
「気をつけなさいよ」
「了解」通信終了すると、私たちは、その場を後にした。
 敵を押しつぶした場所を通り抜けたけど、それっぽい痕跡は何も残ってなかった。
戦闘も時間にして二三分くらいじゃなかったかしら。
 歩きながら先輩が言った。
「哲子は私みたいに敵を写真に撮って退治しよう」
「敵を写真に撮ればいいんですか?」
「そう」
それくらいなら私にも出来そうだ。
「さっきの奴らはなんなんですか?それと、イクルミちゃんがやっていたのは」
「奴らは深川の刺客だ、東陽町の独立を目指すうちらを始末するためにうごめいているやつらね」
「博士」とイクルミちゃんが先輩に声をかける。
さっきと同じ『雑魚』だ。
 今回もイクルミちゃんが凶悪バスケットボールボンボンで突撃していったが、ちゃんと私用に一匹獲物を残すことを忘れていなかった。
「パシャリ」
私はケータイでそいつを写真に撮って”倒した”
「経験値とか」
「戦闘終了!哲子の経験値は1あがった」
「うへぇ、たった1ですか」
「おつかれさん」
 帰り歩きながら、私は質問を続けた。
だって聞きたい事がいっぱいだから。
「奴らの攻撃方法って何ですか?」
「何だっけなぁ」
まさか、今考えてるんじゃないでしょうね。
イクルミちゃんが変わりに答えてくれた。
「ぺちょって、ひっついてきてチョー気持ち悪いの」
「露出多い格好だもんな」
「それは嫌ですね」納得。
「で、写真に撮ったこいつらはどうするんですか?」
「アジトに戻ったらーP2Pで流す」
非常に今風で安易な方法だなぁと思ったのは秘密、だって私は下っ端ですので。
 その様にして、私たちはアジトに戻り、そしてそこにみかかさんが居てくれたわけだが、温かいお茶の用意とかは特になく、私はまだ終電には余裕がありましたが、その日はそこまでにして、帰宅したのでした。

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