学校が終わると私は寄り道せずに、アジトに向かう。
「失礼します。おっ」
珍しいことにその日アジトにはみかかさんしかいなかった。
アジトの備品の様であり、学校に通っているとも思えないイクルミちゃんが、給湯室にもトイレにも見当たらないのだ。
そして、先輩も居なかった。
このアジトには必然的に私とみかかさんしか居ないと言うことにー。
「二人きりだね」
背筋がゾクッとするようなことをみかかさんが言う。
私はこの人と二人きりになるの初めてで、こう言っちゃ何なんですけが、なんとなくで苦手な人っぽいなぁと。
元々人間関係苦手なんですけどぉ。
「お茶煎れますねぇ」
私が雑事に逃れたのを誰が責められましょう。
みかかさんの机には、既にカップが置いてある、自分で淹れたのかな?
ついでに私は手洗いとうがいを済ます。
「ちょっと」みかかさんの声。
「はい?」
「良い機会だからあなたに忠告しておくわ」
薄暗いアジトの中で、みかかさんが不敵な笑みを浮かべつつ手招きしている。
これはもう、行かない訳にもいくまい。
「お話って、何ですか?」私はおそるおそる聞いた。
「あなた、死ぬわね」
しばし沈黙。
取り敢えず
「そりゃ、いずれはー寿命とかで?」
「言い方が悪かった、あなた殺されるよ、園子に」
「ええっ??」
「あいつは昔から女の子をここに連れてきて?だいたいの子はすぐに逃げ出すんだけど、そうじゃないと、殺されるんだから」私の煎れたお茶を飲みつつそういうみかかさん。
「冗談は良子さん」
「現実よ。現にイクルミは園子に殺されてるわ」
「えと、イクルミちゃんは生きているのでは」
「あれはイクルミに似せたものよ、私のイクルミを返してっ」
呆然と立ちつくす。
私に言われましても。
その時、助け船の先輩被告が登場。
なんか無表情で
「うぇ~っす」園子さんがアジトに到着。
ひょっとして寝起きなのだろうか、御髪に寝癖が。
アホ毛かな?
「イクルミちゃんアイスコーヒー」
シラーー
居ないので、私は先輩を戸惑った目で見やり、給湯室に小走り。
みかかさんも先輩が来たので、話を打ち切り、業務に戻っていた。
「あれ?イクルミちゃん居ないの?」
「どこに行ったのかしらね」とみかかさんが返答。
「本当に知らないの?」
「それはこっちの台詞」等と相変わらず仲の宜しくないことで。
取り敢えずアイスコーヒーをかいがいしく給仕する私。
「さんきゅ」と先輩受け取るアイスコーヒーを一気に飲み下した。
どうやらおかわりは要らなかったようで。
私は、コップを下げようか考えたけど、先輩が氷を口に含みだしたので、
お盆を机の上に置き、私も椅子に腰掛けた。
「いや、場所は解るジャン、端末で」先輩が続けて言う。
私の端末でも、隊員の居場所は調べることが出来る。
プライベートもへったくれもありはしない。
「何をしているのかも、通信して聞けば解るわよ」
「じゃぁ、すればいいじゃない」その通りなのだが。
「あれれ?何か怒ってますぅ?」
「怒ってないわ」
「…そう、それならまぁ良い。ちぇっ。哲子ちゃん、んじゃ行きましょうか」
「あっはい。でも、グラスを」
「いいよ、みの付く人がやってくれる~」
もう、ドアーに向かって歩を進めている。
やってくれるかなぁ。
でも、私より付き合いの長い先輩がそう言うのだから、やっておいてくれるのかも知れない。
帰って来た時、氷の溶けたグラスが見事にそのまんまになってました。
アジトを出た私は、走って先輩に追い付くと、思い切って聞いてみることにした。
「先輩は、イクルミちゃんを改造してなんかいませんよね?」
ジッと答えを待つ、私先輩を信じていますから。
「みかかが?そんなこと言ってた」
「はい」どうして即否定してくれないのだろう。
「改造しちゃった」苦笑いして、頭をかきながら、先輩はこう仰った。
「ええええーっ」
「なんで改造したんですか?私も…改造されちゃうの?」死活問題だもん、たたみかけるように聞くと。
「ケースバイケース」と飛んでもない事を言うじゃないですか。
思わず警戒して先輩からずさささーっと離れる私。
みかかさんの言っていたことは本当だったんだ。
どうしてですか?先輩そんな酷い人だったなんて。
ひ~~ん。
「ごめん」先輩はそう言って私に謝る。
「哲子、私のこと怖いよね、嫌いになった?」胸が痛い。でも、否定出来ないな。
「そりゃ、怖いよね、おっぱいビームとか嫌だよね?」
「もう、一緒にパトロール出来ないね。無理だもん。」途端、先輩は駆け出し、私の前から姿を消した。
私は、先輩を追いかける勇気も足止めするおっぱいビームも持たない無力な女子高生だと、自覚した。
一人でアジトに帰る。
「ただいま」みかかが私が一人なのに気が付くと、
「私の言った通りだったでしょ?」
無言で頷く。
「危ない所だったなぁ」何で微妙に嬉しそうなんですか?
「なんで、なんで園子さんは、イクルミちゃんを改造したんだろうきっと何か理由が」
みかかは頭を振る。
「自分の好奇心を満たすためよ」
「でも、どうしてみかかさんはそんな園子さんと一緒に仲間で居られるの?みかかさんだって改造されるかも知れない」
「それは……、私だって許せないし怖いよヨ。けどね、改造されたイクルミをメンテナンス出来るのはあいつだけだから」
「……。」
その時、噂のイクルミちゃんがアジトに帰ってきた。
私はおかえりよりも先に質問していた。
「イクルミちゃんは機械なの?」バレちゃったかという風にはにかみながら
「うん」
「それで、イクルミちゃんは先輩のことを恨んでないの?」
「どうして?」
「いや、だって改造されちゃった訳でしょ?」
「強引に?」
「そう」
イクルミちゃんは、みかかを一瞥し、こう言った。
「たしかにー確かにね、私が目を覚ましたら改造手術は終了しててね、私は改造人間になっちゃってたの」
「でもー?」
「でも、それは私が改造手術を受けないと助からないほど大怪我を負っていたからだよ」
「!?」
「私が哲子ちゃんみたいに新入りだった頃、やっぱり園子さんとーパトロールに出かけたの」
「そして、私ドジふんじゃって」エヘヘと苦笑い。
「敵の攻撃で瀕死の重傷」言うと椅子を回転させてそっぽを向いたみかか。
「どうしよう、私先輩に酷いこと言っちゃった」
「お腹が空けば帰ってくるわよ」背中を向けたまま、みかかはそう呟いた。
「探してきます!」そういって、私は隠れ家を飛び出した。
「みかかちゃん、ひどい~」
「いいか、イクルミ!お前が改造人間されたのは事実なんだ。そして、傷を負ったのは、園子の監督不意期届けだ!」
ブ~~と頬を膨らませ、イクルミは抗議した。
「みかかちゃんの、わからずや!!」
先輩に謝らなきゃ。
私はアジトを飛び出すと、ケータイで先輩の居場所を調べた。
団員の居場所はどんなときでも一目瞭然である、こんな時には非常にありがたい。
先輩の反応はすぐ近くにあった。
「マックだ」食事中かバイト中か解らないが、私は駅前のマックに向かって猛然とダッシュした。
店の前で、中の様子をうかがいながら息を整える。
勝手に絶交した私を先輩は許してくれるだろうか。
謝るべきか、勘違いだったと認識を改めた事を伝えるだけでよいのか。
「うん、謝ろう」拳をぎゅっと強く握り、行動指針を決定。
私は、カウンター前の混み具合を見計らって自動ドアから店内に。
「いらっしゃいませこんばんは~♪」先輩のスマイルが私を向かえ入れる。
しかし、このスマイルは職業的に0円で振りまいているものだ。
例えカーネル・サンダースがやってきても笑顔で向かい入れるだろう。
「あのぅ、先輩。私…」謝るって決めてたのに、上手く行かない。
「お客様お召し上がりですか?」
ガーン。
形通りの接客に絶望した!
もしかして先輩怒ってます?
私のこと知らない人扱いですか??
「お持ち帰りで」間違った敬語の使い方だけど、マックの場合これで定着してるから、変じゃない。
違う、そうじゃなかった。。
「あなたをお持ち帰りで!」
ズバーン
一瞬先輩のスマイルが曇った。
「ご一緒にポテトはいかがですかぁ?」
「先輩解ってくれたんですね」私が感動していると
「解るか」と冷たく言い放たれた。
その場に崩れ落ちる私。
「今は仕事中だから、ちょっと待ってて」私はほもお田ホモ男みたいに髭の濃い店長に、客席へ連れて行かれ、大人しくしているように言われた。
程なくして、私には一時間にも二時間にも感じられたけど、先輩が私の目の前に立ち。
無言で向かいに腰をかける。
「改造されに来たのか?」とシガレットチョコをくくわえ、私にフーッと息を吹きかける。
うつむいて、先輩の顔を見れないで居た私の前髪が揺れる。
それを切っ掛けに「ゴメンナサイ先輩。私」やっと謝ることが出来た。
「先輩がイクルミちゃんを改造したのは、イクルミちゃんを助けるためで、だから先輩はいい人です!」
「いや、初陣のイクルミちゃんを守りきれなかった。やっぱり私が殺したも同然だよ」
「でも、私は先輩が改造したくて、それで、ノーマルのイクルミちゃんを改造したのかと思って」
「いや、それもねぇ。とにかく、私はお前がやられたら、改造してしまうかも知れないよ」
「それって、助けてくれるって事ですよね」
「そうなるのかな」
なんだ、全然問題なし。
「でも、そんな理由だったら、どうしてみかかさんは?私に誤解を招くような言い方をしたのかなぁ」首をかしげる私。
「そうだなぁ」ストローでズズズとノイズをたて、ドリンクを飲みきり、
「イクルミちゃんはみかかにとってそれだけ大切って事だよ」先輩が言った。
んで、まぁ、とぼとぼと?膨れたお腹をさすりつつ、近距離だからね
歩いて帰ると。私が二番目の戸の所でノックをしようとしたら
先輩がなんかきししと笑いながら
防犯カメラを押さえつつ、ノーノックで扉を開けなさった
バッガサッ一体二人で何をなさっていたんでしょうか
何もしてないわ、何もしてないよ
ますます怪しいんだけど
勿論、下っ端の私に追求権はないし
先輩はきゅきゅきゅと喜んじゃって、大満足してるようだし。
悪趣味だぁ。
かように私の毎日は、学校が終わると自販機にお使いに行って
あとは、日々ケータイでの戦い方を覚えるような研修期間が続いたのだった
暇な時は、学校の授業の予習をしてみたりなんかして
家とかでじゃぁ、全然する気にならないのに、不思議です
「で、今日の研修は。あれ?どこまで教えてたっけ」
先輩が不思議な踊りで私に聞いた。
テンション高いな~。
「もう一通りは教わったのではないかと」私も、ここポリ容器置き場の一員になって早いもので、三ヶ月が経過しようとしていた。ゴールデンウィークボケとかも乗り越えて今の私が居るのだった。
「そうだねー、ゴールデンウィーク開けとかに来なくなっちゃう人も居るんだよにー、いいこいこ」言いながら、先輩は腕で私の方を抱き寄せてほおずりしてくる。
「眼鏡!眼鏡が」当たって痛い。
「眼鏡は顔の一部です」意味解らないことを言ってぷーっと膨れる先輩なのであった。
「ほいじゃぁ、今日のメニューは、駐車違反を取り締まりつつマックでバイトしちゃう」
うわぁ。これって本当に深川侵略活動と関係あんのかな。
「腹が減っては戦は出来ず!」
結局、ジグザグに町内を回るも、駐禁車両は一台も見当たらず、
駅前のマクドナルド東陽町駅前店に到着した。
「ここはね、店名が東陽町だから偉いんだ」エッヘンと反り返る先輩。
「普通じゃないの」
「甘い!隣の銀行をご覧なさい。東陽町駅前にあるのに何故か深川木場店」
「えぇっなんでぇ」
「泣けてくるよ~」
そんなやりとりを道の往来で何故行っているかというと。
そう、我々はマクドナルドの臨時雇いのバイトなので、店が混んで、人手が足りなくならないとバイトも出来ない訳なのです。
中でなんか食べるとお金が減るので、外でキャンセル待ちというか、求人が発生するのを待っている訳なのです。
でも、もうすぐ夕方ピークなんで、多分大丈夫。無駄足と言うことはありますまい。
「そういえば先輩、私校則でバイトNGなんですけど」
「大丈夫、私もよ」
「何が大丈夫なんですか?」
「そんなものは、勢いと勢いよ」
「勢いだけですか」
「バレやしないって」
「そんな無策な」
「じゃぁ、私の眼鏡を貸してあげましょうね」
あっさりと貸し出される”顔の一部”。
「わぁっ、それなら変装になりますかね」
「うん、私も変装になってこりゃ一石二鳥」ポンと手を打つ。
その日のバイトは、手元ががよく見えなくてミスを連発した二人。
店長にこっぴどく叱られた上にバイト代も出なかった。
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