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日曜日, 6月 24, 2007

深校から過去へ

夜の東陽町。制服に身を包んだ園子、哲子の二人が、歩道橋から学校の塀を乗り越え二階のテラスに飛び移った。
その普通ではない跳躍力も、ケータイを所持していれば可能だ。
何て便利なケータイ、お前は重力制御まで出来てしまうのかと、撫で撫でする哲子。
「後にしなさい」と呆れる先輩が、戸の鍵を開けて職員室へと侵入しようとしている。
「先輩、我々は屋上に行くんですよね?」
と、ベランダから上に伸びている階段の存在を指摘する哲子。
「わぁってるわよ、でも、せっかくの制服なんだし?内部を通って行こう」
「はぁ、そうですか」
 侵入するやいなや、職員室の机を物色し出す先輩。
「あの~、何してんですか?」
「今日の授業の小テスト、ちょっと気になるところがあって」
「駄目ですよぉ、ズルしちゃ」
公私混同甚だしいのである。
 そんなことで道草を食っていると、見回りの人がやって来る。
ドアががららっと開き、
「そこにいるのは誰だ」
私たちはとっさに屈むと、その姿勢のままドアの方に移動し、中に入ってきたオッサンと入れ違いで職員室からの脱出に成功。
後はひたすら二人で走ったよ、脱兎のごとく。
「はぁ、はぁ」
「今のはヤヴァかった」
絶句ですよ!応援を呼ぶだろうし、見つからないうちに本来の目的を達せねばならない。
 と言うことで、もう寄り道をせずに、屋上を目指す我ら。
見つからないように細心の注意を払いながら階段を上ってゆく。
 そっと、屋上の様子をうかがいながら、ドアを開けると、そこには待ちかまえている人影があった。

「こんな遅い時間、学校の屋上まで何の用事?」
「それはこっちの台詞だ。うちの大切な高校に忍び込んでおいて盗っ人猛々しいね」
返す言葉もない。ごもっともです。
「ちょっと、泳ごうとしただけだよな~?」
「えっええ」
「制服で?って、あなた方その制服」
「なんだよ」
「古い制服よね?」
「こっちの方が可愛いから」私が言い放つ。
「夜服なんだよ!」先輩が続けていう。
「まぁ、いいわ」菊地姉妹は呆れながらそう言った。
バッと、手で何かを振り払うように動作して
「あんた達の考えはお見通しなんだからね」
「ほぅ」
「プールの水で学校を水浸しにしようなんて、そうはさせない」
「屋上にプールなんか作るから悪いんよ」と言うと先輩が菊池姉妹に向かい駆けだした。
 私は、その隙にバッグからオモチャの潜水艇型の爆弾を取りだして、プールの縁にセットする手はずだ。
 先輩はちゃんと菊池姉妹の気を引いてくれている。
「よしっ」
私が手で潜水艇を慎重にプールに沈めようとした刹那、後ろから何者かにプールに突き落とされた。
とっぱーん。
セット完了。
「ぷはっ」水から顔を出す。私を突き落とした人の姿は、光の関係ではっきりと捉えられない。
 急いでプールから上がらないとと思うやいなや、ポッポムッと変な音がした。
次の瞬間、プールの水がみるみる減り始めた!?
「ええええ」私は焦って水から上がろうとする。
しかし、水に濡れた制服がまとわりつき、思うように動けない。
そうしているうちに、ますます水の吸いこむ力が強くなる。
吸いこまれる!ピンチです。
それに、爆弾も爆発してしまうもん。これは死んだ。
そう思うと、全くその場所から動けずに、プールから上がれない状態が続く。
「ちょっと、哲子何やってるの!?」
「先輩、一人で逃げて下さい~」
「そういくもんか」
先輩は、危険を顧みず、プールサイドから私を引き上げようとしてくれる。
しかし、どんどん反対側のプールサイドにある、排水溝の方に吸いこまれていく私。
そしてついに、爆弾が爆発した。
ドッカーン。

「いててて、ここはどこ?」
哲子は頭を押さえながら周囲の様子を探る。
空気はある、目に付く看板の文字も日本語。
その次にうつぶせに倒れている先輩を発見。
 慌てて駆け寄る哲子。
まだ、意識がないようなので、仰向けにして揺さぶってみる。
「先輩!ちょっと、起きて!」
「ん~」眼鏡を無意識に探す先輩。
哲子がつっこむ前に「あぁ、かけてた」
そして、さっき哲子がしたの同様にキョロキョロしてから、ケータイを確認して。
ハッと驚き、次に哲子ににやついた笑顔を向けた。
 「ここは東陽町よ」先輩は言いました。
どう見ても、さっきまで居た東陽町ではないのですが。
確かに、都バスも、公衆電話も十円玉も健在である。だけど!?
私が導き出した結論は、そう
「昔の東陽町?」
「正解!」口ファンファーレで私を祝福してくれる。
状況が状況なので、あまり喜べない。
「それで、今は西暦何年?」
「昭和42年か44年だったと思うんだけど……。西暦に直すと何年くらいかしら」
「何で昭和で解るの?」
ちょっと、困ったような先輩。
頭を掻きながら
「私が来てみたいと思った時代なんで」エヘヘとかカワイコぶっても私許しませんからっ。
「何でそんなセットとかしてるんですか!」そう私が疑問に思い質問したのも当然。
「いやぁ、機会があったから、いつか逝きたいなぁと思ってて。でも、ほら、タイムトラベルは危険じゃない、戻れないかも知れないし?だから、セットして奥にとどめてあったの」
「……。」嫌な予感がする。
「戻れないの?」私は意を決して聞いた。
「戻れるよ」ホッとしたのもつかの間
「確実に元の時代に戻れるのは一人でーあとの一人は、いつに戻れるのか多少のブレ幅は覚悟しなくちゃ行けないわね」
「!?それってどういう事ですか」
「うん、まぁね。哲っちゃん、のケータイ見せて」
私は素直に先輩に自分のケータイを差し出す。
ここで先輩を疑っても仕方がないじゃない。
「やっぱねぇ、哲子のケータイまだ、タイムトラベル関連の設定が済んでいない。とね、今からやっても来た時にちゃんと戻れるかは、やっぱり運次第というか、ほら、人力で設定してやることになると、どうしても誤差がねぇ」
 概要を把握したような気がした私は、取り敢えず話を収めることにした。
あんまりにも我々がオーバーリアクションでやりとりしていたために、目立ってしまい、周りはちょっとした人だかりになりだしていた。
これはいつ警察がやって来てもおかしくない。
「場所替えましょう」
「そうですね」
我々は周りに愛想笑いを振りまきながらその場所、どこだ?を後にしたのだった。

 我々は移動先の東陽公園のベンチに腰かけている。
「東陽公園はあるんだ」
「東陽町の名前の由来はよく解ってないけど、東陽小学校か東陽公園がその由来って説が有力」そう先輩が説明してくれた。
「あと驚いたのがー」
「あぁ、都電だろ」
「そう」
先輩は知っていたみたいだれど、二人で驚きを共有した。
「あれこそ、東西線の原型みたいなもん」
「えっじゃぁ、高田馬場まで続いてるんですか?」
「線路はね、そんで朝とかは直通電車があるみたいだけど、普段は茅場町辺りで終い」
「スピード遅いから」哲子はそう言って笑った。
「あら、地下鉄も地下じゃそんなスピード出している訳じゃないのよ」
「そうなんだ」鉄道トーク終了。

 哲子がお腹に手を置き、ぼんやりと空なぞ見上げていると。
「お腹が空いた?」先輩に尋ねられた。
顔を赤めながら、そんなにあれかな、顔に出ていたかなとか考えていると。
それはただ単に先輩も空腹を感じだしていたから、そう思い、聞いたとのこと。
「それと、寝る場所とかもどうするんですか?日帰りが可能なのかしら?」
着替えや洗面道具なども当然不携帯な我々二人組なのである。
「そうね、お金は小銭が使えるかしら」先輩も苦笑。
やけくそである。
電子マネーが使える地域が世界の果てって感じがしてたけど。
当然、電子マネーもアウト、電車にも切符を買わないと乗れません。
小銭で買える!
「けど、やっぱりホテルとか旅館に泊まるのは無理ですよね」
「まぁ、いざとなったらみかかの家に泊めて貰えるかな」
「AV東陽はあるんですか?」
「場所は違うけどね、確かあると思う」
「電話で確認してみる」等と恐ろしいことを言う。
先輩はケータイを操作して、耳に当てて、繋がるのを待っている。
まぁ、普通のケータイじゃないわよ。
私は今更驚いても無駄だと既に免疫が出来ていたのだ。
 「もしもし、みかかぁ?」軽いノリで先輩が言うと、隣にいても電話先が怒っているのが解る、先輩は受話器を耳から遠ざけた。
「それって、未来と電話が出来るんですか?」そう質問した私に先輩は、怪訝な表情。
「だってあんた、タイムトラベル出来るんだよ?このケータイ。通話だけだったら楽勝ジャン」
なるほど、そういうものかも。
「うん、お店はある、了解」先輩は指でオーケーサインを作って私に見せた。
「え?居るよ?」先輩がそう言うと、スピーカーホンに切り替わる。
「大丈夫?」みかかさんが呆れぎみに私にそう声をかけた。
「ええ、なんとか」本当になんとか。
「ちょっと待って」少し間が開き、「悪い知らせがあるわ」みかかさんはそう言った。
 少し、過去観光をして、東陽町をよりよく知って現代に戻るという訳には行かなさそうだ。
「ん~面白くなってきたきた?」先輩はその知らせを聞いてこうこととした表情で、身震いしている。変態さんだ。
「何があったんですか?」私は、冷静に情報の先をみかかさんに促した。
「うん、今過去に送られた情報をチェックしてみたら、どうやらそっちに飛んだのは、あなたたち二人だけじゃないみたいなの」
えーっ。
 思い出せ、哲子。過去にジャンプする直前の状況を。
あの時、深川高校の屋上プールにいたのは、私たち以外に。
「菊池姉妹かしら?」
「ええ、でも一人とは限らないから油断しないで」
「解りました」
「いったん切るな」先輩が、そういうと。
「解った。また何かがあったら」そして、通信が終了した。
 「電池の心配を?」そう質問して、私は通信終了の理由を自ずと察した。
周りに子供達が、遠巻きにそのお母さん達が、ひそひそと。
私たちは、また場所移動をせざるを得なくなりました。
もう行くあてもないというのに。
 私たちは、ドブ川を眺めるような形で腰を下ろしていた。
辺りはもう夕方と言ってもいい時間帯だ。
お腹も本格的に空いてきた。
「川の流れは、簡単に変わりませんね」私はお腹空いたなーと想いながら、そう言った。
「そうだな、うん、それはありがたい」
 ここに来る途中、東陽商店街を通りみかかちゃん家を確認した後、木場と東陽町の境目になっているのかな?その、川というか運がをぼんやりと眺めている。木場駅はこの川の下にあるのよね、末恐ろしいことに。
ところどころに現代東陽町にも残る建物を見るにつけ、時の移り変わりについて、考えさせられたり、考えたりしながら、軽く現実逃避などを噛ましていたのであった。
「パンかなんかを商店で買って食べよう」
「寝床は」
「今の時期なら外に寝ても大丈夫だろ」
というか逆に熱くて死にそう。
あっでも夜は少し過ごしやすくなるのかな?
ただ、連泊すると汗臭くなることは必定といった感じ!
 「元の時代に帰るためにはどうしたら?」私は先輩に聞いてみた。
「いや、帰ろうと思えばいつでも帰れる、ただ、一人がちゃんと帰れるかどうか不安なだけ」
「ただ」
「ただ?」
「一緒にこっちの時代にやってきた菊池姉妹なり何なりをこの時代に、残したまま私たちが帰るとー」ごくり。
「時代を奴らの良いように操作される危険がある訳ですね」先輩が頷く。
私たちが残って東陽町をこの時代から回復・開放するなんて事は、取り敢えず考えないことにする。
元の時代に戻りたいんだって!
 私はこれから何が起こるのか大まかに解って、生活する自分を少し想像してみた。
私が歴史を変えようと努力しても、その影響なんて僅少で、歴史は変えれないだろうなと思うと、己の無力感を感じずには得ない。
それと私は、この時代の自分の両親のことも考えてみた。
この時代だと、お父さんやお母さんは何歳だろうと。
ちょっと会ってみたいと思わなくもないけれど、アルバムの写真でお腹いっぱいかな。
それにだって、向こうはこっちを絶対認識してくれないと思うし。
「そういえば、どうして先輩のケータイにはこの時代がセットしてあったの?」
私は、はたと思いだし、先輩に質問した。
そういえばさっき、是非に来たいと思っていたとか言っていなかっただろうか。
「あーそれはですよ」先輩はあまり、嬉しそうな表情は見せずにこう言った。
「地下鉄東西線が、東陽町まで延伸してくるの」
 そうだった、都電ーあと数年で廃止になるーがバリバリ走っている中、
さりとて、東西線が出来たから切り替わりで廃止になる訳ではなく、しばらくは、地下鉄の上の道路を都電が走っているという、今から考えると誠にアクロバチックと言うか、なかなかねーよ的な状況が、首都東京に現れている時期だった。
 夕食として買ってきたあんぱんと牛乳を食べて英気を養いつつ。
「いや、だって東陽町に東西線が来た瞬間に立ち会いたいと思うじゃない」
利用者としては。なんて先輩は言う。
「まぁ、そういうもんですかねぇ」アンパンが空腹にしみる。
「実は東陽町は、地下鉄の駅が開業する時に近隣の町が寄り集まって東陽町に合併したの」「これが最近だったら、清澄白河とか赤羽岩淵みたいな事になるところよ」
つまり、駅の開業に会わせて周りが東陽町になるのではなく、逆に駅の名前を二つの町名をくっつけて済ますというような事か。
それか!東陽町ってやたらと広いなぁとは思ってた。
「東西線の東陽町延伸が、東陽町の礎なんだ」そう、パンを食べながら私が言うと。
「そうなのよっ」先輩は私の手を強く握りしめ、ブンブン振る。
あぁ、私先輩の何かに火を付けるようなこと言っちゃった。
 こうして、我々の帰還は、観光と一緒に来た何者かの探索が済んでからという運びになったのでした。
 その後、時差ボケみたいなものがあるんですかね。
私たちは、手頃な木陰にチェックインして眠りについたのだった。いわゆる野宿というやつである。便利なことに?ケータイには野宿モードも付いていた。安心して眠れるのでありがたい事である。

夢を見ました。
「私もよ」
過去での野宿一日目、私たちは公園でケータイの野営機能を利用して木になりすまして一夜を明かしました。
 そこまでしなくても良いんだけど、そういう機能なんでね。
大は小を兼ねる。そないあれば嬉しいな、あはっ。
 「島にいました」私が記憶から急速に消えだした夢の内容を先輩に伝えようと。
「同じだ」
えっ。どうやら先輩も島の夢を見たそうです。
まぁ?我々は木に化けるために組み体操みたいにくっついて寝てましたから。
ケータイの機能なんで、発動しちゃえば、組み体操しているのが自分の体じゃないようにラクチンで、快適な眠りが保障されている訳ですが。
だから、同じ夢を見ても不思議じゃないのかなぁ。
 「これは、どういう意味でしょう」
う~ん。二人で考えて見た。
我々は過去にジャンプしてきてしまっていて、一緒に運んできた菊池姉妹を淘汰しないと、未来に帰る訳にも行かない。
けど、どこにいるのか見当も付かず、今日から探しましょうと言う時に見た夢が、島の夢。「あっ」
「どうした、哲子。夢判断に成功したのか?」
「いや、イクルミちゃんの出身地の島かなぁと」
「あぁ、エロイラス島ね。それは違うと思う。実在するかどうかも怪しいもんだ。」
ハズレらしい。
「私は解ったよ」もったいぶらずに教えて下さいよ~もう。
「夢の中に島が出てきた。それって、菊池姉妹が夢の島にいるって事なんじゃないかしら」ぽかーん。
私はあまりの安直さに、少し軽く意識を失ってしまう。
「夢の島って、この近くにあるの」
「駅からバスが出てる」
 そうやって、藁にもすがらなくてはならない、我々の現状に私は悲嘆しつつ、公園のトイレで身だしなみを整え、昨日買っておいたパンと牛乳で朝食をとり。
 駅前からバスに乗って、菊池姉妹探索の為に夢のお告げに従い夢の島へと向かった。

 バスに乗ったり、買い物をしたりしているけど、どうやってしているかって言えば。
ケータイを軽く数回振ると、ポロッと百円玉が出てくるので、地道にその百円玉で生活してます。
500円玉が出ればいいのにって?
いや、まだこの時代500円玉は登場していないのよ。
お札なんだな、500円札!
 駅前は、地下鉄にバスに路面電車という、現代からしてみるとちょっとしたターミナル駅の様相だ。
都バスは、そんなに現代と変わらない、勿論車は古いし、バリアフリーじゃないし、冷房も付いてないよ。
あと、色が黄色かったり青かったり緑もいるのかな?
白黒写真で見ることが多い、都電の色が実は黄色地に赤帯で、まるでフィリピンかタイかって感じなのには少々驚いてしまう。すぐに慣れたけど。
つまり、黄色い都バスは、都電カラーなのだ。
 バスは、永代通りを行き止まりの日曹橋まですすみ、そこで右折して明治通りを南下していく。
 南砂二丁目団地も西友東陽町店も新東京郵便局も、未だ無い時代。
「本当に何もないですね~」と私が言うと。
先輩が
「私、中学生の頃塾のクラスで、東陽町に住んでいる子供が多い地域塾だったんだけどー。クラスで千葉をバカにするような発言があったんだわ。」
「そうしたら、ジョンレノンみたいな国語の教師が言ったのね。ここだって昔は千葉だったろ。みたいな事よ」
「でもね、この前ヤフーがやっていた東京の古地図を現代の地図と重ねるみたいな期間限定のサービスで、この辺養殖場が拡がってた。南の方に行くともう海なんだけど。江戸の果てだったんだね、ここ。でも、江戸は江戸。都電もちゃんと城東電車が走っているし。荒川寄りも西はやっぱり東京。」
「江戸川区の人が少し可哀想、かも」
「しかし、これが現実なのだよ、フハハハ」
そうこうしているうちに、バスは夢の島に到着した。
 バスを降りると、そこに湾岸線や京葉線の新木場駅はなかった。
「ひょっとして、バリバリ埋め立て中?」
ついでに、まだ公園も開園する前です。
 何もなく、ゴミ収集車だけが行き来している、埋め立て地に菊池姉妹はいるのだろうか。元々、島を夢に見ただけだし?居るはずもないのだが。
しかし、そこに菊池姉妹は居たのだった。
 どうして、そんな埋め立てもまだ進行中で、地盤沈下もバリバリな夢の島ですぐに菊池姉妹を二人が発見できたかというと。
でかかったからだ。遠くからでもよく見える~。
菊池姉妹は、何故か巨大化していた。
黒いジャージを着ているので、パンツは見えない。空気を読んだんでしょ、敵も敵なりにサ。
「ありゃま」
「先輩!巨大ロボを呼びましょう!今すぐ」
「この時代に巨大ロボはまだ完成してない!」
「現代にはあるんですか」等と、逆に驚くしかない哲子だった。
 「まぁ、すぐに見つかって良かったよ。ラッキー」
巨大だから見つけるのは早かったけど、これからどうやって退治しよう。
 幸いあちらは、まだこちらのことに気がついていない様子。
「どうして巨大化したんだろう」
「うん、それが分かれば。哲子が巨大化して戦う」
「嫌ですよ!」
しーっ。
気付かれたら、踏みつぶされてぺたんこである。
二人は取り敢えず、木陰に身を隠した。

 「これはもうやるしかないな」
「どーするんですか」
「話し合おう」
ええーっ。
先輩はどこからか拡声器を取り出すと、巨人である菊池姉妹に向けて話しかけた。
「あーあーマイクテスマイクテス、本日は晴天成り。聞こえますか?あなたですよ~菊地さ~~ん」
場所が場所だけに、ご近所迷惑というものが無いのがこれ幸いというか。
 どうやら聞こえたようで、私?と自分を指さす巨人。
「そうですよ、あんた!どうしてそんなに大きくなってんの?」
「それは」非常に低いトーンの、元の声とは全然違う地響きを伴うような声が、夢の島辺り一面に響き渡る。
 これで、あの巨人の名前は、怪獣ソレハに決定だな。
人語を解しますけどね、奴は。
ドシーン。
巨人ソレハこと、でっかくなっている菊池姉妹は、言うよりやって見せた方が早いよねと言わんばかりに、私たちを踏みつぶしにかかる。
必死で逃げまどう私たち。
私たちが木陰に隠れるので、奴はレゴブロックの木よろしく、日を引っこ抜いては投げ、引っこ抜いては投げしている。
 まだ、植えられたばかりの木で、非常に巨人にとって抜くのが容易なようだ。
「あぁ、未来に上野に来るコアラの為のユーカリが」先輩が目に涙を浮かべている。
そうか、先輩はコアラ萌えだったのか!
 コアラ萌えの先輩は、ユーカリのために逃げることを止め、ソレラの前に姿を現す。
「先輩危ないですよ~」
と、私が言うのを片手で制す先輩。
なにやら策があるの?
 巨人も、覚悟を決めたようだね的に立ち止まる。いつでも踏みつぶせるという余裕を見せているのだ。
 「あんた、服とかそれ、どうしたの?」先輩が拡声器を使って菊池姉妹に語り出した。
どうみても、世間話にしか聞こえないんですけど!
 でも、意外や意外、心細かったのか、菊池姉妹はちょっと待ってねと、リアクションを撮った後にどすどすと立ち去り、またどすどすと舞い戻ってきた。手に鞄を持って。
「お~体だけじゃなくて、服とか持ち物も巨大化したという訳か」
先輩がそう言うと、こくこく頷き、次にエッヘンする怪獣ソレハ。
喋ればいいのに。
どうやら、さっきの自分の声とは思えない、怪獣の方向のようなボイスに、ショックを受けたみたいだな。
「じゃぁ、セーラー服も持ってる?そう。着替えなよ?ジャージカッコ悪いよ?」
先輩が、そう提案すると。
自分の出で立ちを、点検し出す怪獣ソレラ。
そうでしょう、あの大きさだと自分の姿を一望できる姿見の鏡も存在しないでしょうから、自分がどんな格好で人様の前に姿をさらしているか確認する手段が無くて、不安だったところに、先輩の一言。見事な心理作戦です。
「そうね~、悪いけどちょっと待っててくれる~」
そういう怪獣ソレハの声に、今度は先輩がコクコクする番だ。
踏みつぶされるのをただ待っている、馬鹿も居ないと思うのだが。
 十分後にセーラー服に着替えた怪獣ソレハが戻ってきた。
隠れるもなにも、遠くに行ってもここから着替え姿は丸見えだった訳だが。
勿論先輩はその辺は指摘しない、見ない振りだ。
 「これでいいでしょう、じゃぁ、踏みつけて殺して上げる」
ヤバイ、全然問題解決してないッスよ、先輩!!
 私が、木陰で身をすくませて動けないで居ると。
「縞々」ボソッと先輩が拡声器で呟いた。
すると、ビクッと踏みつける動作が途中で止まったのだ。
!?
菊池姉妹はスカートを押さえて軽く百メートルは後ずさった。
顔を真っ赤にして、
「図ったわねぇ」半泣きである。
 先輩が私にピースサイン。
私は、先輩の所にかけより、拡声器を譲り受けると、ポケットから双眼鏡を取り出すと
「そのシミは!?買取査定に好影響」等と、パンツの買取査察を始めた。
その横では、先輩がぱしゃぱしゃ怪獣ソレラのローアングルな写真を撮りまくる。
 我々の完全勝利でした。
怪獣ソレラは急速に存在感を薄め、白くてスケスケの巨大な砂の像になったと思うと、そのまま南の方角に倒れた。
それが、現在の若洲である。
 我々は、百メートル先の足元部分に人影を見つけ、そこに駆け寄った。
菊池姉妹である。さっきまで居た怪獣ソレハと同じセーラー服姿。スカートをめくると縞々パンツだったので、間違いはない。
 意識を取り戻しそうだったので、先輩がパシャリとケータイで撮影する。
これを、アジトに持ち帰りP2Pして世界配信すれば。
 あれ?何か忘れていないか。
その後、意識を取り戻した菊池姉妹は脱兎のごとく逃げていったが、当然
「構うこと無いわ」その通りである。
写真さえ撮ってしまえば、奴の魂はケータイの中に。
「ああっ」私は思わず叫び声を上げた。
「どうした、哲子」いぶかしがる先輩。
 戻るアジトが無い。
「この子は、何を言ってるのか、そうだった!!」
 ケータイで魂を吸ったのは良いが、それを最終処理するアジトが、この時代には存在していない。
「どうなるんですか?」私は先輩に聞いてみた。
「二日三日はケータイに魂を保留にしておけるんだけど」
「その間に処理しないと魂は」
ごくり。
「元の入れ物に」
辺りを見回したが、そこに菊池姉妹の姿は見当たらなかった。
 完全に逃げられた。
こうして私たちの菊池姉妹捜索はまた振り出しへと戻ったのでした。

 その翌日、我々が駅前で聞き込みをしていると、突然急発進する車があった。
みるみる二人に近づいて来る、ぶつかる直前に身を翻して車を避けた二人は、その車を運転している人物を確認した。
「菊池姉妹」
ブルルン。
車は、行きすぎるとUターンして、再度ひき逃げするために、こちらに突っ込んでくる気配です。
「二手に分かれよう」
「ハイッ」
そうして、二手に分かれて逃げることにした訳ですが。
「え~なんでぇ」私に狙いを定めたようで、車がこっちにやってくる。
 まだ、障害物も歩道と車道の境目も曖昧な道路を、縦横無尽に使って、逃げまくる私。
車をかわすことは、そう危なげなくこなせるのだが。
ガソリンで動く車と、疲労が蓄積していく私とでは、私が車に轢かれるのは時間の問題といえた。
 「ふふふ、そろそろ観念したらどう?上手く轢いて上げるから」キキキキ。
「ごめん被りますよっ」コツン。あっ。
路面電車の軌道に足を引っかけて、転んでしまいました。
待ってましたと轢き殺しに来る車。
チンチーン。プゥオーー。とその時異音を軽快に発しながら、路面電車が交差点を左折して来た。
 絶体絶命か!と思った、その都電の運転席に先輩の姿を見つけた私は。
ギリギリまで、その線路付近にうずくまっていて、車が猛スピードでやってきて轢かれる寸前に、横に転がった。
ゴロゴロゴロリン。
ビシャーン。ゴロゴロゴロ。
私が転がった瞬間既に車と路面電車が正面衝突していた。
危ないね。
電車は急に止まれない、昔の車が丈夫とはいえ、鋼で出来た重量のある都電に車は適わなかった、前の方をひしゃげて、そのまま電車に押し戻されて三十メートルくらい行ったところで、停止。
ガソリンに引火して、ボッカーンと非道いことになっている。
 ウ~~、カンカン。遠くの方から消防車が出動した音が聞こえる。
がらり。都電の出口が開くと、そこから先輩が降りてくる。
「大丈夫ですか?」
「う~ん、ショックに備えていてこっちの方が丈夫だとはいえ、予想以上に効いたわ~」と、頭・首・腰をさすっている先輩。
 丈夫な方に、乗っていた先輩がこれなんだから、車に乗っていた菊池姉妹は、どうだろう。それに、燃えちゃってるしな。
 色々聞きたいこともあったのだが、燃えて居るんじゃそれも無理だろう。
やってきた消防と警察の、警察の方に二人で殺しのライセンスを見せて。
ほら、ラミネートって当時の技術じゃ無理なのかな?
それと、勿論カラープリンターで出力したそれは、こっちの人から見たら、ウルトラハイテクな訳で、それだけで疑うのは失礼みたいなもん。
 そそくさと、現場を離れると。
本格的に、現代に戻る準備に取り掛かるのでした。

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